Googleスプレッドシートでの顧客管理は、複数人で使う前提なら合理的な選択です。同時編集ができ、版履歴が自動で残り、端末を選びません。表計算ソフトをファイルとして共有する形で起きる問題の大半は、この時点で解決しています。
一方で、解決しないことも3つあります。閲覧範囲を分けられないこと、期日で通知できないこと、そして顧客と活動を1つの表で持てないことです。いずれもGoogleの公式ヘルプで確認できる仕様です。
以下では、解決していることを先に確認し、そのうえで残る3つを一次情報の引用つきで扱います。3つのうちいくつが自社に当てはまるかで、次の判断が決まります。
Googleスプレッドシートで顧客管理はできますか?
できます。件数の上限が問題になることもありません。Googleは1つのスプレッドシートの上限を次のように記載しています。
"Up to 10 million cells or 18,278 columns (column ZZZ) for spreadsheets that are created in or converted to Google Sheets."
出典: Google ドライブ ヘルプ(2026-08-12取得)
10列で管理するなら100万行に相当します。顧客管理でこの上限に当たることはまずありません。 破綻するとすれば、件数ではなく運用の条件によってです。
「何件までスプレッドシートで大丈夫か」ではなく、「自社の運用に必要な条件を満たしているか」で判断してください。以下でその条件を扱います。
スプレッドシートが解決していること
表計算ソフトをファイルで共有する運用と比べたとき、次の3つが最初から解決しています。
1. 同時編集
複数人が同時に開いて編集できます。誰がどのセルを見ているかも表示されます。追加のライセンスや設定は不要で、ファイルを共有した時点で使えます。
ファイルをやり取りする運用で最も多い事故は、同じファイルの別のコピーがそれぞれ更新されることです。共有リンク1つで運用する限り、この分岐は起きません。
この差は小さくありません。ファイルを添付して送り、戻ってきたものを手で突き合わせる作業がなくなります。突き合わせの過程で入る誤りも、同時に消えます。
2. 版履歴
変更履歴が自動で保存され、いつでも過去の状態に戻せます。誰がいつ変更したかもセル単位で確認できます。
「先週の状態に戻したい」「この金額を誰が変えたか知りたい」に、追加の設定なしで答えられます。表計算ソフトのファイルをバージョン管理する仕組みを自前で作る必要がありません。
顧客管理で効くのは、誤って消したときの復旧です。行をまとめて削除しても、版履歴から戻せます。バックアップを取り忘れて困る場面が構造的に起きません。
3. 端末を選ばない
ブラウザがあれば使え、スマートフォンからも開けます。外出先で顧客情報を確認する用途は、この時点で満たされます。
この3つが要件のすべてなら、スプレッドシートで十分です。 無理にCRMへ移す理由はありません。次の3つが問題になるかどうかで判断してください。
解決していないこと
1. 閲覧範囲を分けられない
シートの保護でできるのは編集権限の制御であり、表示の制御ではありません。Googleのヘルプは次のように記載しています。
"Spreadsheet viewers can still access content in hidden sheets. For example, if a viewer makes a copy of the spreadsheet, the sheets remain hidden, but they can unhide the sheets."
保護でできないこととして "Protect data with a password." も明記されています。
出典: Google ドキュメント エディタ ヘルプ(2026-08-12取得)
閲覧権限を渡した相手は、非表示にしたシートの中身にも到達できます。 見せたくない列を別シートに移して非表示にする、という運用は成立しません。
この制約が効いてくるのは次の場面です。
外部の協力会社や業務委託と、一部の顧客だけを共有したい
担当外の案件の金額を、他の担当者に見せたくない
経営層だけが見る情報を同じ表に持ちたい
回避策は、共有する範囲だけを別のスプレッドシートに切り出すことです。ただしこれを始めると、ファイルが増えて「どれが最新か」の問題が戻ります。分岐を防ぐために1つにまとめたのに、権限のために分けることになります。
IMPORTRANGE で必要な列だけを別のシートへ持ってくる方法もあります。この場合、参照元のスプレッドシートへのアクセス権は不要になりますが、参照先が更新されるまでの時間差と、参照が壊れたときの検知が新しい課題になります。
どの回避策も、管理する対象を増やします。 共有先が1社だけなら成立しますが、担当ごとに範囲を変える段階になると、維持できなくなります。
2. 期日で通知できない
通知ルールで指定できる条件は2つだけです。
"Any changes are made": Set notifications when someone makes a change to a spreadsheet.
"A user submits a form": Set notifications when someone fills out a form.
出典: Google ドキュメント エディタ ヘルプ(2026-08-12取得)
変更されたときと、フォームが送信されたときにしか通知できません。 「次回アクション日が今日になった」を起点にした通知は、標準の機能にはありません。
顧客管理で最も効くのは期日の管理です。期日が来たことを知らせる仕組みがないと、誰かが毎朝シートを開いて確認することになります。開くのを忘れた日は、そのまま抜けます。
条件付き書式で色を変えることはできますが、色はシートを開いた人にしか届きません。 通知とは別のものです。
「変更があったとき」の通知も、顧客管理では機能しにくい形です。誰かが1行更新するたびに飛ぶため、件数が増えると通知そのものが読まれなくなります。受け取る側が内容を確認しなくなった通知は、無いのと同じです。
実務では、朝会でシートを開いて全員で確認する運用に落ち着くことが多くあります。人数が少なく、案件の数が把握できる範囲なら、これで足ります。件数が増えて確認が形骸化した時点が、限界です。
3. 顧客と活動を1つの表で持てない
1社に複数回の接触があると、1行1顧客の形が崩れます。行を増やせば顧客が重複し、列を増やせば「接触1」「接触2」と横に伸びます。
これは表形式そのものの構造で、スプレッドシートに限った話ではありません。詳しい説明は顧客管理をExcelでやる方法と、乗り換えを判断する条件で扱っています。
別シートに分けて顧客IDでつなげば持てますが、集計のたびに関数で突き合わせることになります。件数が増えるほど重くなり、シートの構造を理解している人以外は触れなくなります。
構造を作った人しか直せない状態は、権限や通知の問題より根が深いところにあります。 数式が複雑になるほど、他の人は表を壊すことを恐れて触らなくなり、結局その人に依頼が集まります。
スプレッドシートで作るときの要点
上の3つが問題にならない段階では、次の4点を守れば運用に載ります。
1行1顧客にする。 セルを結合せず、見出しは1行目だけに置く
顧客IDを最初の列に置く。 会社名を鍵にすると、社名変更のたびに別の顧客になる
選択肢はデータの入力規則で固定する。 ステータスや業種を手入力にすると表記が割れる
次回アクション日を空欄にしない。 空欄の行は誰の目にも留まらない
重複の検知は、条件付き書式のカスタム数式で COUNTIF を使うと、同じ値が2件以上入った時点で色が付きます。ただし拾えるのは完全一致だけです。「株式会社Mer」と「(株)Mer」は別の値として扱われるため、入力時の表記ルールで防ぐことになります。
スプレッドシート固有の要点が2つあります。
共有の設定を「リンクを知っている全員」にしない。 顧客情報を扱う表では、招待した相手だけが開ける設定にします。リンクが社外へ転送された場合、閲覧範囲を分けられない制約がそのまま影響します。
フィルタは「フィルタ表示」を使う。 通常のフィルタは全員に反映されるため、誰かが絞り込むと他の人の画面も変わります。フィルタ表示なら自分だけに適用され、同時に作業していても干渉しません。
列の設計、入力規則の入れ方、備考欄の扱いといった手順は顧客リストとはにまとめています。
Apps Scriptでどこまで埋まりますか?
Googleのヘルプは、通知ルールより細かい条件が必要な場合に "use Apps Script" を案内しています(2026-08-12取得)。期日を起点にした通知は、この方法で作れる範囲に入ります。
判断が要るのは、作った後です。スクリプトは書いた人以外が保守できません。 作った担当者が異動または退職した時点で、誰も直せない仕組みが残ります。
作るかどうかは、次の2つで決めてください。
その仕組みを保守する人が、今後もいるか
作る対象が期日通知だけか、権限や構造まで及ぶか
期日通知だけなら、スクリプト1本で足りる場合があります。権限と構造まで自作しようとすると、実質的にCRMを作ることになります。そこまで来たら、既製品を使うほうが安く済みます。
CRMへ移す判断
上の3つのうち、いくつ当てはまるかで決めます。件数では決まりません。
当てはまった数 | 判断 |
|---|---|
0個 | スプレッドシートを続ける。移す理由がない |
1個 | 回避策で凌げるか確認する。期日通知だけならApps Scriptも選択肢 |
2個以上 | CRMへの移行を検討する段階 |
2個以上で移行を勧めるのは、回避策どうしがぶつかるためです。権限のためにファイルを分けると分岐が起き、期日のためにスクリプトを足すと保守の担当が要ります。個別に解決できても、同時には成立しません。
判定は年に一度でかまいません。組織の人数や、外部と共有する範囲が変わったときに見直せば足ります。変わっていないなら、移す理由はありません。
移行を検討する段階に入ったら、選定の軸は顧客管理システムとはにまとめています。クラウド型を前提にする場合の確認事項はクラウド型の顧客管理を参照してください。
移すときの順番
全部を一度に移そうとすると、列の対応表を作る作業で止まります。
移す列を5つに絞る。 顧客ID、会社名、担当者、ステータス、次回アクション日
現在も接触している顧客だけを移す。 過去の全件は後回しにする
1〜2週間、両方に入力する。 運用が回ることを確認してから切り替える
スプレッドシート側を参照専用にする。 更新先を1つに決めた時点で移行は完了
3を飛ばさないことです。ツールを替えただけでは運用は変わりません。誰がいつ更新するかを決め直す時間が要ります。
スプレッドシートは消さずに残してください。過去の記録を参照する用途と、一時的な集計に使う用途は、移行後も残ります。更新先を1つに決めることが移行であり、スプレッドシートを使わなくすることではありません。
トライアルで確認する5項目
比較表だけでは決められません。実際のデータを数十件入れて、スプレッドシートで解決していなかった3つが実際に解決するかを確かめてください。
閲覧範囲。 一部の顧客だけを見せるユーザーを作り、他が見えないことを確認する
期日通知。 次回アクション日を昨日に設定して、実際に通知が届くかを見る
顧客と活動の分離。 同じ顧客に3件の活動を登録して、顧客が1件のままかを確認する
入力の速さ。 実際に入力する担当者に、1件登録してもらって時間を測る
書き出し。 CSVで出して、活動履歴が含まれるかを開いて確認する
Pipedriveは、顧客と活動を分けて持ち、次のアクションを軸に管理するCRMです。Merは国内唯一のマスターパートナーとして日本市場で提供しており、全プランに日本語サポートと日本語オンボーディングが付きます。
プラン | 月額(税抜) |
|---|---|
Lite | ¥2,800/月 |
Growth | ¥6,800/月 |
Premium | ¥9,800/月 |
Ultimate | ¥13,800/月 |
出典: https://www.pipedrive.merinc.co.jp/plans(2026-08-12取得)。年間契約で月額から最大36.4%の割引。
無料トライアルがあります。今のスプレッドシートから数十件だけ取り込んで、上の5項目を確かめるところから始められます。
よくある質問
Google Workspaceに顧客管理の機能はありますか?
顧客管理専用の製品は含まれていません。スプレッドシート、フォーム、カレンダー、Gmailを組み合わせて作ることになります。
組み合わせで作る場合も、上の3つの制約は残ります。とくに閲覧範囲と期日通知は、どの組み合わせでも標準機能では埋まりません。
スプレッドシートとExcelでは、顧客管理にどちらが向いていますか?
複数人で使うならスプレッドシートです。同時編集の条件を満たす必要がなく、版履歴も自動で残ります。
Excelの場合、同時編集にはMicrosoft 365のサブスクリプションと対応バージョンが必要で、条件を満たさない環境が1つ混ざると全員が編集できなくなります。詳しくは顧客管理をExcelでやる方法と、乗り換えを判断する条件で扱っています。
顧客管理のテンプレートはありますか?
配布されているものを使えますが、自社の項目に合わせた追加と削除が必要です。テンプレート選びより、先に管理したい項目を決めるほうが早く進みます。
項目の決め方は顧客リストとはにまとめています。
何人までならスプレッドシートで運用できますか?
人数では決まりません。全員が同じ範囲を見てよいなら、人数が増えても問題は起きにくいです。逆に2人でも、片方に見せたくない情報があるなら制約に当たります。
判断は、上の3つのうち何個当てはまるかで行ってください。
スプレッドシートからCRMへデータは移せますか?
CSVで書き出して取り込めます。問題になるのは項目の対応関係です。既存の列と新しい項目が1対1で対応しないため、移す前に対応表を作る作業が発生します。
移す列を5つに絞ると、この作業がほぼ不要になります。
顧客情報をスプレッドシートに置いても問題ありませんか?
法令や社内規程、取引先との契約によります。本記事では判断を示しません。確認するのは、誰がアクセスできるか、どこに保管されるか、退職者のアクセスをどう止めるかの3点です。
閲覧範囲を分けられない制約があるため、共有した相手には表の全体が見えると考えて設計してください。 見せたくない情報があるなら、最初から同じ表に置かないのが確実です。
CRMを入れてもスプレッドシートは使い続けますか?
使い続けてかまいません。一時的な集計や、外部と共有する一覧をスプレッドシートで作る運用は、CRM導入後も残ります。
分けるのは更新先です。顧客と案件の更新はCRMに一本化し、スプレッドシートは書き出した結果を加工する場所として使います。
スプレッドシートの欠点は何ですか?
顧客管理の用途では3つです。閲覧範囲を分けられないこと、期日で通知できないこと、顧客と活動を1つの表で持てないこと。いずれもGoogleの公式ヘルプで確認できる仕様で、運用の工夫では埋まりません。
逆に、同時編集・版履歴・端末非依存は解決済みです。欠点として挙げられがちな項目の一部は、ファイル共有型の表計算ソフトの話であって、スプレッドシートには当てはまりません。
顧客データ管理におすすめのアプリは何ですか?
用途によって答えが変わるため、製品名の序列では選べません。判断軸は3つです。閲覧範囲を分ける必要があるか、期日での通知が要るか、顧客と活動を紐づけて追う必要があるか。
3つとも不要なら、スプレッドシートで足ります。1つでも必要なら、CRMやSFAと呼ばれる分類の製品が対象になります。そのうえで、既存の業務システムとの接続、入力の手間、管理者を誰が担うかで絞り込む順序が現実的です。
参照元
記事情報
著者: 株式会社Mer
レビュー: Pipedrive運営チーム(株式会社Mer)
更新日: 2026年8月13日
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